| name | ir-freeform-text-analysis |
| description | 「学生調査の自由記述回答を AI で分析したい」「授業評価アンケートの傾向を可視化したい」 「大学評価業務で膨大な記述データを整理したい」「新入生アンケートの定性データからカテゴリを抽出したい」 場面で使う IR 担当者向けスキル。匿名化前処理・カテゴリ抽出・クラスタリング・検証の 7 ステップで、 Web 版 AI 禁止ゾーンと運用ラインを構造化する。
|
| license | CC BY-SA 4.0 |
| metadata | {"version":"1.1.0","last_updated":"2026-04-21","author":"gmoriki"} |
ir-freeform-text-analysis
学生調査・授業評価の自由記述を生成 AI で分析する判断フレームワーク
1. Overview
IR(Institutional Research)業務では、学生調査・授業評価・大学評価の自由記述回答を扱うことが多い。従来は KH Coder 等の質的分析ツールや、職員による目視集計が中心だったが、生成 AI の登場により、数百〜数千件の記述データからカテゴリ抽出・傾向可視化を短時間で行える可能性が開けた。
一方、自由記述には学生の氏名・学籍番号・特定できる個人情報が混入しやすく、Web 版 ChatGPT 等に生データをそのまま入力することは情報漏洩リスクを伴う。匿名化・前処理の工程を省略すると、AI サービス側の学習データに学生発言が流れ込む可能性があり、個人情報保護法および各大学の学生データ取扱規程に抵触する。
本スキルは、森木氏自身の Speaker Deck「大学 IR における生成 AI 利用の試み」を中心に、大学 IR コンソーシアム学生調査、大学評価 SD 事例を統合し、自由記述分析を 7 ステップ(データ取得→前処理・匿名化→カテゴリ抽出→クラスタリング→検証→可視化→報告)に構造化する。さらに、中退予測・学業予警のような「予測型」分析には、倫理境界(同意・予測精度・介入権限・バイアス監査)を明示する。
大学固有の制約として、単年度予算で ChatGPT Enterprise や API を新規契約しづらい場合があり、ローカル LLM(LM Studio / Ollama 等)や学内 GPU サーバーの活用、Web 版 AI 禁止時の代替手段も併せて検討する必要がある。
2. Prerequisites
- 所属大学の AI 利用ガイドライン、学生データ取扱規程、研究倫理審査の確認
skills/confidential-info-guidelines/ の 3 段分類の把握(学生データは原則 Level 3)
- 個人情報保護法における「要配慮個人情報」「特定の個人を識別できる記述」の理解
- 前処理ツール(Excel・Python・KH Coder 等)の基本操作
- IR コンソーシアム・大学基準協会等の質的分析の標準手順の参照
3. 主な利用者
職員(IR 室・評価室・教学 IR 担当・大学評価担当)。教員(IR センター兼任教員)と連携することも多いが、学生個人データの直接取扱いは職員主導が原則。
4. 判断フレームワーク
4-1. 前処理パイプライン(匿名化の必須項目)
自由記述データは生のまま AI に入れない。氏名・学籍番号(削除)、教員名・科目名(「教員 X」「科目 Y」に記号化)、所属ゼミ・部活名(学年・学部のみ残す)、具体的日時・場所(抽象化)、家族・交友関係の個別言及(「家族」「友人」に総称化)を除去・置換する。さらに k-匿名化(k=5 以上推奨)を意識し、4 属性(学年・学部・性別・国籍)の組み合わせで 5 名未満になる記述は、属性の粒度を落とす。
4-2. AI サービスの使い分け
| サービス | Level 2 | Level 3(匿名化前) | Level 3(匿名化後) |
|---|
| Web 版 ChatGPT(Free/Plus) | 不可 | 不可 | 不可(仕様変更リスク) |
| ChatGPT Team / Enterprise | 条件付き可 | 不可 | 条件付き可 |
| Claude Pro / Team | 条件付き可 | 不可 | 条件付き可 |
| API 利用(学習オフ契約) | 可 | 不可 | 可 |
| ローカル LLM(Ollama 等) | 可 | 可(組織ポリシー次第) | 可 |
Web 版は匿名化後でも、将来の仕様変更リスクを考慮して業務利用から外すことを推奨。
4-3. 分析手順の 7 ステップ
①データ取得 → ②前処理・匿名化 → ③カテゴリ抽出 → ④クラスタリング → ⑤検証 → ⑥可視化 → ⑦報告。各ステップの作業内容・ツール・検証ポイントは references/workflow-steps.md 参照。
4-4. KH Coder 等との役割分担
- KH Coder・NVivo 等の質的分析ツール: 語彙頻度・共起ネットワーク・コーディング再現性
- 生成 AI: カテゴリ仮説生成・要約・対話的な再分類・報告書下書き
両者は競合ではなく補完関係。質的分析ツールで計量的な裏付けを取り、AI で解釈と要約を効率化する。
4-5. 中退予測・学業予警の倫理境界
中退リスク予測・学業予警を AI で行う場合、以下の境界線を守る。
- 同意: 学生への事前告知と同意取得(オプトアウト含む)
- 予測精度: 誤検知・見逃しの許容範囲を事前設定。予測を「決定」でなく「支援のきっかけ」として扱う
- 介入権限: AI 出力で自動的に学生に接触せず、教員・職員の判断を必ず挟む
- バイアス監査: 性別・国籍・経済状況で予測精度が偏っていないか定期的に確認
- 説明責任: 学生から「なぜ自分が接触対象になったか」の問い合わせに応えられる透明性
5. 判断フロー
flowchart TD
A[自由記述データの受領] --> B{データレベル判定}
B -->|個人情報あり| C[前処理・匿名化]
B -->|既に匿名化済み| D{利用 AI サービス}
C --> D
D -->|Web 版 AI| E[利用不可]
D -->|Enterprise・API<br>ローカル LLM| F[カテゴリ抽出]
F --> G[クラスタリング]
G --> H[サンプル目視検証]
H -->|妥当| I[可視化・報告]
H -->|不十分| F
I --> J{予測型分析か?}
J -->|Yes| K[倫理境界チェック<br>同意・精度・介入・バイアス]
J -->|No| L[報告書確定]
K --> L
6. 使用場面
シーン A: 授業評価アンケート自由記述(600 件)の傾向分析
1 学期分の授業評価(対象 50 科目、600 件の自由記述)を学部単位で傾向分析したい。個別科目の評価は別ルートで教員個人にフィードバックし、本分析では全体傾向(「授業時間配分」「課題量」「対話機会」等)の把握が目的。前処理で教員名・科目名を「教員 X」「科目 Y」に置換し、API 経由でカテゴリ抽出・クラスタリングを実施。サンプル 30 件を職員が目視検証し、カテゴリ妥当性を確認する。
シーン B: 新入生アンケート自由記述のカテゴリ抽出
新入生 800 名を対象とした入学時アンケートで、「大学選択理由」「不安に感じていること」「期待すること」の 3 問が自由記述。職員 1 名で全件目視は 3 日かかるため、AI でカテゴリ抽出を効率化したい。匿名化後、Enterprise 版で 10-15 カテゴリに分類させ、カテゴリ別の代表発言を抽出。検証後、各カテゴリの件数分布を執行部向け資料にまとめる。
シーン C: 大学評価における SD 活動の記述データ整理
大学基準協会の認証評価に向け、過去 3 年間の SD 活動報告書(数百件、職員記述)を整理。評価項目ごとに「取り組み内容」「成果」「課題」を抽出する必要がある。SD 活動報告は Level 2 相当(学内限定)のため、Enterprise 版か API 経由で扱い、カテゴリ抽出と要約を実施。職員が最終整理し、自己点検・評価書の下書きに活用する。
→ 詳細は examples/example-01-jugyo-hyoka-jiyukijutsu.md を参照。
7. Limitations
- 所属大学の学生データ取扱規程・研究倫理審査手続が常に優先
- AI によるカテゴリ抽出は、プロンプトと初期サンプルに依存する。複数回実行で結果が変わる場合があり、再現性の担保には固定シード・プロンプト版管理が必要
- 中退予測・学業予警のような「介入に繋がる分析」は、バイアスが学生の機会を直接奪う可能性があるため、倫理審査と事前告知を必須とする
- KH Coder 等の確立された質的分析ツールを置き換えるものではなく、補完ツールとして位置づける
- 単年度予算で Enterprise 契約ができない場合は、ローカル LLM 活用を含めた代替手段の確立が必要
- 小規模サンプル(50 件未満)では統計的傾向として扱うには慎重さが必要。AI が「もっともらしい」カテゴリを過剰に生成する傾向がある
References