| name | scenario-continuity |
| description | シナリオの論理的整合性・因果関係・物理的矛盾を防ぐためのスキル。
「なぜこの人は今ここにいる?」「なぜこの行動をとった?」「前の場面と矛盾していないか?」
といった違和感を事前に潰す。シナリオ執筆・修正時に必ず適用すること。
scenario-writing(テキスト表現)、narrative-design(構造設計)の下位で機能する
「物理法則レイヤー」のスキル。
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シナリオ整合性スキル — 物語の物理法則を守る
読者は「良い文章」の前に「矛盾のない世界」を求める。
一行の論理的矛盾は、百行の名文を台無しにする。
1. シーン状態管理 — 入口と出口を定義する
各シーンに必須の4要素
シーンを書く前に、以下をコメントで明記すること:
// 前提状態: この場面が始まる時点で、世界はどういう状態か
// - 場所: どこにいるか
// - 時間: いつか(日付・時間帯)
// - 目的: 主人公は何をしにここに来たか
// - 知識: 主人公はこの時点で何を知っていて、何を知らないか
//
// 変化: このシーンで何が変わるか
//
// 結果状態: このシーンが終わる時点で、世界はどういう状態か
// - 次のシーンの前提状態と一致すること
状態遷移チェーン
シーンAの結果状態 = シーンBの前提状態でなければならない。
悪い例:
Scene A結果: 主人公は内見を終え、物件を借りることにした
Scene B前提: (記述なし。いきなりコーヒーを淹れ始める)
→ 読者:「え、いつの間にカフェの営業を始めたの?」
良い例:
Scene A結果: 主人公は物件を借りることにした
Scene B前提: 契約から2週間後。開店準備の日。掃除と設備チェック中。
→ 読者:「なるほど、準備中なんだな」
2. 動機の因果チェーン — 全ての行動に「なぜ」を
行動の3条件
キャラクターが何かをする時、以下の全てが揃っていること:
- 動機(Why): なぜそれをするのか
- 能力(Can): それをできる状態にあるか(道具、知識、権限)
- 機会(When): 今それをするタイミングとして自然か
悪い例:
主人公がいきなりコーヒーを淹れ始める
× 動機: 内見に来ただけなのに、なぜ?
× 能力: 自分の豆を持ってきた(なぜ内見に豆を持参?)
× 機会: 水道が使えるか確認もしていない
良い例:
主人公が掃除中にエスプレッソマシンの動作確認をする
✓ 動機: 開店準備の一環として設備テスト
✓ 能力: 契約済みで自由に使える、豆も仕入れ済み
✓ 機会: 開店準備日なので当然の作業
因果チェーンの連結テスト
行動Aが行動Bの原因になっているか、逆方向にたどって検証する:
客が入ってきた ← なぜ? ← ドアが開いていた ← なぜ? ← 換気のために開放していた
← なぜ? ← 掃除中だから ← なぜここを掃除? ← 来週の開店に向けて準備中
→ 因果チェーンが途切れない ✓
客が入ってきた ← なぜ? ← ドアが開いていた ← なぜ? ← 鍵を閉め忘れた
← なぜ忘れた? ← (説明なし) ← そもそもなぜ閉まっているべき建物のドアが…
→ 因果チェーンが途切れる ✗
3. 物理的整合性 — 世界のルールを壊さない
空間の一貫性
- 登場した設備は以降も存在し続ける(消えない)
- 設備の機能と描写が一致する
- エスプレッソマシン → エスプレッソを抽出する描写
- ハンドドリップ → ドリッパーとケトルの描写
- これらを混同しない
- 「2年間放置された」なら、それに見合った状態を描写する
- 水道: 最初は錆び水が出る
- 電気: ブレーカーを上げる必要がある
- 食器: 洗わなければ使えない
- 消耗品(豆、ミルク等): 2年前のものは使えない
時間の一貫性
- 1シーン内で時間が逆行しない
- 「数日後」「翌週」など、時間経過を明示する
- 準備に必要な時間を飛ばさない
- 物件契約 → 掃除・改装 → 仕入れ → 開店 の順序を守る
知識の一貫性
- キャラクターは「まだ知らないこと」を知っているように振る舞わない
- 逆に「当然知っているべきこと」を知らない振りもしない
- 情報の入手経路を追跡する:
悪い例:
主人公は前オーナーの名前を知らないはず
→ なのに「藤宮時雨がこの場所で淹れ続けた15年」と語る
→ 誰から聞いた? いつ?
良い例:
主人公は前オーナーの名前を知らない
→ 「前の人」「ここにいた誰か」としか呼べない
→ ch2で宮内から断片的に聞いて初めて名前が出る
4. 前提の妥当性 — 「普通の人ならどうする?」テスト
常識チェック
シーンを書いた後、以下を自問する:
- 自分がこの状況にいたら、同じ行動をとるか?
- NO → その行動に至る特別な理由を描写に追加する
- この状況を友人に話したら、「え、なんで?」と聞かれるか?
- YES → 「なんで」への答えが本文中にあるか確認する
- 省略した手順はないか?
- 鍵を開ける → ドアを開ける → 中に入る のうち、鍵を省略していないか
- 水を出す → お湯を沸かす → 道具を準備する のうち、前段を省略していないか
放置された空間のリアリティ
2年間放置された建物では:
- ✗ いきなりコーヒーが淹れられる
- ✗ 水道からきれいな水が出る
- ✗ 電気がついている
- ✗ 食器がそのまま使える
- ✗ 食品が残っている(残っていても使えない)
- ✓ 埃がすべてを覆っている
- ✓ 蜘蛛の巣がある
- ✓ 空気がかび臭い、こもっている
- ✓ 窓が曇って外が見えにくい
人の行動のリアリティ
「なぜこの人はここに来た?」に答えられないシーンは書かない:
- 閉まっている建物に人は入ってこない
- 「匂いがしたから」は、そもそも営業していない建物の前を通るのが不自然
→ ただし、近所の住人で毎日この道を通る人なら自然
→ 元常連で、この場所のことを気にしていた人なら自然
→ 理由を先に読者に暗示しておくことが重要
5. 章ヘッダーの必須テンプレート — 章レベルの状態差分
各章のファイル冒頭コメントに、以下の章レベル状態差分を含めること。
これにより「この章で世界がどう変わるか」が一目で分かり、
章をまたぐ矛盾(前章の終了状態 ≠ 次章の開始状態)を防ぐ。
// --- 章の状態差分 ---
// 開始状態: [この章が始まる時点の世界の状態]
// 終了状態: [この章が終わる時点の世界の状態]
// 主人公の変化: [内面・認識がどう変わったか]
// 店の変化: [物理的状態、客足、メニュー等の変化]
// 関係性: [各キャラとの関係段階の変化(例: 表面的接触→日常の共有)]
検証ルール:
- 章Nの終了状態 = 章N+1の開始状態であること
- 関係性の段階は「親密度エスカレーション5段階」(narrative-designスキル参照)と一致すること
- 章の開始状態に書かれた情報を、本文の冒頭シーンが読者に伝えていること
6. シーンヘッダーの必須テンプレート
各シーンのコメントに以下を含めること:
// --- Scene N: タイトル ---
// 前提: [場所] / [時間] / [主人公の目的]
// 知識: 主人公がこの時点で知っていること / 知らないこと
// 変化: このシーンで何が起きるか
// 結果: シーン終了時の状態
// 矛盾チェック:
// - 前のシーンの結果状態と一致するか? → [Y/N]
// - 登場人物の行動に動機があるか? → [Y/N]
// - 物理的に可能か? → [Y/N]
7. テキスト本文での状態伝達 — コメントではなく読者に伝える
スキルの他のセクションは「書き手のためのチェック」だが、
最終的に重要なのは読者がテキストを読むだけで状態が分かること。
シーン冒頭での状態提示(3行ルール)
シーンの最初の3行以内で、以下が「分かるか推測できる」状態にする:
良い例:
「契約から二週間。開店準備三日目の朝。」
「掃除道具とバケツが入り口に並んでいる。」
「今日はカウンター周りと水回りを片付ける予定だ。」
→ 読者:「準備中の三日目ね。掃除してるんだ」
悪い例:
「カウンターの上に材料が並んでいる。」
「りんご。シナモンスティック。はちみつ。」
→ 読者:「いつの話? なぜ材料がある? 誰が買った?」
シーン末尾での変化の可視化
シーン終了時に、始まりと比べて何が変わったかを1-3行で示す:
良い例:
[シーン冒頭] 埃だらけのカウンター。水道は錆び水。
[シーン末尾] カウンターは磨かれ、蛇口からは透明な水が出る。
→ 建物の状態が「廃墟」から「少し人の手が入った場所」に変化した
良い例:
[シーン冒頭] 名前も知らない客。
[シーン末尾] 「佐倉です」と名乗ってくれた。
→ 関係性が「完全な他人」から「名前を知る人」に変化した
「なぜそうなったか」の推測可能性
全ての変化に対して、読者が因果を読み取れるか推測できること:
| 変化 | 因果の伝え方 |
|---|
| 明示的 | 行動→結果をそのまま描写(「蛇口を磨いた。きれいな水が出るようになった」) |
| 暗示的 | 時間経過+状態変化で推測させる(「一週間後。カウンターは見違えるほど綺麗になっていた」) |
| 不可 | 状態だけ変わっていて理由が不明(「翌日。なぜかカウンターが綺麗だった」)→ ✗ |
建物・環境の状態変化追跡
物語を通じて、舞台となる建物の状態が段階的に変化していくことを描写する:
ch0: 廃墟(埃、錆、蜘蛛の巣、電気なし)
↓ 掃除・契約・改装
ch1: 最低限営業できる状態(きれいだが殺風景、メニューが少ない)
↓ 常連が定着、少しずつ手を加える
ch2: 「店」らしくなってくる(メニューが増える、棚に物が並ぶ)
↓ ...
ch8: 「みんなの場所」(写真、思い出の品、生きている空間)
8. よくある違和感パターンと対策
| 違和感 | 原因 | 対策 |
|---|
| 「この人なんでここにいるの?」 | シーン冒頭で目的が不明 | 冒頭3行以内に「今日は何をしに来た」を入れる |
| 「え、いつの間に?」 | 時間経過の省略 | シーン間の時間経過を明示する |
| 「さっきと言ってることが違う」 | キャラの知識管理漏れ | 知識追跡表を作る |
| 「そんな都合よく…」 | 偶然に頼りすぎ | 因果チェーンで必然性を担保する |
| 「道具どこから出した?」 | 物の出所が不明 | 使う前に存在を描写する |
| 「準備してないのに…」 | 手順の省略 | 中間手順を最低1行入れる |
| 「なんでそれ疑問に思わないの?」 | 不自然な無反応 | 疑問を持つ描写 or 疑問を持たない理由を入れる |
| 「設備と描写が合わない」 | エスプレッソマシンとハンドドリップ混同等 | 設備名と抽出方法の対応表を確認する |
コーヒー設備と抽出方法の対応表
| 設備 | 抽出方法の描写 | 音・動作 |
|---|
| エスプレッソマシン | ポルタフィルターに粉を詰める、タンピング、抽出ボタン | 機械の唸り、蒸気の音 |
| ハンドドリップ | ドリッパーにフィルター、お湯を細く注ぐ、蒸らし | ケトルからの湯の音、ぽたぽたと落ちる音 |
| フレンチプレス | 粉を入れてお湯を注ぎ、待って、プランジャーを押す | 静かな待ち時間 |
| サイフォン | 下のフラスコで湯を沸かし、上に上がった湯で抽出 | ぽこぽこと沸く音、アルコールランプの炎 |
| 手挽きミル | ハンドルを回して豆を挽く | ゴリゴリという手応え |
9. 知識追跡表 — キャラクターが「知っていること」を管理する
知識不整合の典型例
ch4で主人公が「15年。前のオーナーがこの場所で淹れ続けた時間」と語ったが、
この時点で主人公は前オーナーの在籍期間を誰からも聞いていない。
→ 知識の先取り(未入手情報の使用)
知識追跡表のフォーマット
シナリオを書く前に、以下の形式で主要情報の入手時点を整理する:
| 情報 | 入手元 | 入手章 | 入手シーン | 備考 |
|------|--------|--------|-----------|------|
| 前オーナーの存在 | 不動産屋の言葉 | ch0 | s0 | 「前の人」としてのみ |
| 前オーナーの名前 | 宮内 | ch2 | s2 | 「藤宮時雨」 |
| 前オーナーの在籍期間 | 宮内 | ch3 | s1 | 「15年くらい」 |
| 佐倉が元常連 | 推測(行動から) | ch0 | s3 | 確証はch1で |
| 佐倉の名前 | 佐倉本人 | ch1 | s1 | 二日目に名乗る |
使い方
- 執筆前: 対象の章までに主人公が入手済みの情報を確認する
- 執筆中: 新情報を主人公が使う場合、入手シーンが対象章より前にあることを確認する
- 執筆後: 追跡表を更新し、新たに開示された情報を追記する
検出ルール
以下のパターンが見つかったら必ず修正する:
- 主人公が名前を知る前に名前で呼んでいる
- 具体的な数値(年数、金額等)の出所が不明
- 「聞いた」「知っていた」が本文中にあるが、聞くシーンが存在しない
- キャラが自分の過去を語る前に、主人公がその過去に言及している
10. 全章一括適用ルール — 部分適用を禁止する
原則: 1章に適用したフォーマットは全章に適用する
状態管理コメント、章ヘッダー、知識追跡など、構造的なフォーマットを
1つの章に追加した場合、同じセッション内で全章に同じフォーマットを適用すること。
✗ 悪い例:
ch0にシーン状態コメント(前提/変化/結果)を追加した
→ ch1-8には追加しなかった
→ 次のセッションで「ch1-8にもコメントがない」と気づいて全章修正
✓ 良い例:
ch0にシーン状態コメントを追加した
→ 同じ作業で ch1-8 にも同じフォーマットで追加した
修正の伝播ルール
1箇所の矛盾を修正した場合、同じパターンの矛盾が他の章にもないか全章を検索する。
例: ch4 で「主人公がまだ知らない情報を使っていた」を修正
→ ch5-8 にも同じキャラクターの知識を前提にした記述がないか確認
→ あれば同時に修正
チェック手順:
- 修正した矛盾の「パターン」を言語化する(例:「知識の先取り」「時系列の曖昧さ」)
- 全シナリオファイル(scenario_ch0.mbt〜scenario_ch8.mbt)をスキャンする
- 同じパターンに該当する箇所をリストアップする
- まとめて修正する
新規執筆時の適用ルール
新しい章を書く場合、書き始める前に:
- 既存の全章ヘッダーの「章の状態差分」を読み、前章の終了状態を把握する
- 全シーンの状態コメントフォーマットが統一されていることを確認する
- 新章の状態差分・シーンコメントを既存章と同じフォーマットで書く
統合チェックリスト(シーン単位)
シーンを書き終えた後、以下を全て確認する:
統合チェックリスト(章単位)
統合チェックリスト(全体)